小林さんは、12歳で突然の脳出血に襲われ、救急搬送されました。手術により命は助かりましたが、運動機能や高次脳機能に後遺症が残りました。それでも大学まで卒業し、就職もできました。最初の就職こそうまくいかなかったものの、就労移行支援を経て、今度はうまく働けているようです。1度は仕事で挫折した小林さんですが、どのようにして乗り越えたのでしょうか?
初めての就職で味わった苦労
私が大学を卒業し、最初に働いた仕事は福祉関係でした。
施設には、身体障がい者の生活介護の部署と知的・精神障がい者の就労支援の部署がありました。
私は知的・精神障がい者の就労支援の部署に入社し、就労支援(内職・クリーニング)を担当しました。しかし、この仕事は4ヶ月ではずされてしまいました。
次に私が担った仕事は、利用者さんの送迎で使う車の清掃でした。ところが、この仕事も1年で外されました。
こうして、少しずつ仕事の幅が狭まっていき、次第に利用者さんと同じ扱いに変化していきました。
私が前職を辞める数カ月前、母親が私が働いていた部署の主任と話をする機会がありました。その数日後、母親が泣きながらこう言いました。
「きつかったら、辞めてもいいよ」
あの時の母の顔は、今でも忘れられません。
私自身、体調面で異変を感じていた事もあり、退職する事になりました。
職場の理事長から「正社員で解雇になるよりも、契約社員にして契約満了で退職の方が良いだろう」と提案していただき、退職しました。この仕事は好きで選びましたが、結果的にうまくいきませんでした。
好きだけで働こうなんて甘い…っ!!
私は強くこう感じました。
就労移行支援を経由する大切さ
前職を辞めた次の日から就労移行での訓練が始まりました。
就労移行では室内では内職、屋外では清掃が仕事の中心でした。特に清掃の仕事は前職でもやっていたため、積極的に取り組みました。
就労移行支援で任された仕事は、自分の体力に合わせた仕事ということもあり、無理なく楽しく取り組めました。
実際の作業もしながら、座学でも様々な事を学びました。特に大切だと思ったことが3つあります。
- 人の前を通る時には一言言ってから通る事。
- あいさつはハッキリと言う事。
- 異性と接する時にはマナーを大切にする事。
これらは、「あたりまえ」の事ばかりです。でも、今になって振り返ってみると、大事な事だったんだと改めて実感します。
「働く」上で大切なこと
今、私は、ハローワークで仕事をしています。主な仕事は、不要となった書類のシュレッダー処分や毎週発行する求人発行の冊子組みです。その他、他部署から頼まれた仕事も手伝っています。
仕事をする上で取り入れている工夫があります。工夫と言っても、難しい事は何もしていません。
意識している事は
- 仕事を始める前に事前準備をする事
- 毎日出勤した時には必ずあいさつをする事
- つらい時には素直に弱音を吐く事
この3つだけです。
事前準備の大切さ
月に一度のリハビリで練習している通り、今は段取りを組んでから仕事をしています。
段取りを取ると「次はどうしたら良いんだろう」とつまづくことが無くなりました。また、どのくらいこの作業を続けたら良いのかが分かるようになり、へとへとに疲れることもなくなりました。
机の上を片付けるようにすることで、さっきまでの仕事と次の仕事がごちゃ混ぜになることがなくなり、次の作業に進みやすくなりました。
あいさつの大切さ
中学1年の頃は、リハビリしながら養護学校に通っており、中学2年から地元の中学に戻りました。そのため、地元の中学に戻った時は、正直仲間として認めてもらえるか不安でした。
ですが、地元の中学に戻った初日の朝、「おっす!」と声をかけてもらえて、とても安心したことを今でも覚えています。
本当に小さな一言でも良いので、あいさつすることを忘れないようにしています。あいさつすることで、その日、「自分はここにいる」と言うことを相手に伝えることができます。
弱音を吐くことの大切さ
仕事の中には、私の苦手な力仕事が続くことがあります。力仕事が続くと辛くなってしまったり、たくさんの仕事を頼まれてしまい「こんなにできるかな」と不安になることがあります。
そんな時は、必ず上司に相談することにしています。仕事は、コミュニケーションだと思っています。
週末は実家に帰って父親に愚痴を言ったり、近所の友人の家で笑いながら愚痴を話すようにしています。
私自身、我慢し続けることはストレスという爆弾を背負っているのと同じことになってしまいます。爆弾が爆発する前に愚痴を言うことで火を消してあげることが大切だと思っています。
私は前職で、爆弾が爆発して辞めることになったので、偉そうなことは言えませんけど、一度失敗した私だからこそ言えます。
泣きたい時には泣いてください。
これから働く皆さんへ
私は前職も、今の仕事も、たくさんの人に助けてもらって就職しました。
この記事を読んでいる人も、いろいろな仕事に就くと思います。そんな皆さんに忘れないで欲しいことがあります。
大事なのは「働いて業績をあげる事」ではありません。
「私は働きたいんだ」という意思です。
仕事で使う技術は働きながら身につければいいと思います。
まず、チャレンジしなければ見える物も見える訳がありません。
怖くても、そっと前に一歩踏み出して、新しい「世界」を見てほしいと、私は願っています。